こんにちは。アラフィフブロガーのエストです。
私は最近、訪問看護の世界に足を踏み入れたばかりの新人訪問看護師です。
夜勤専従として働いているのですが、日勤のスタッフさんが、日が暮れてもなお、
事業所でパソコンとにらめっこしながら残業されている姿をよく目にします。
正直なところ、夜勤帯の私は、訪問記録の作成はしますが、それ以外の「資料作成」
という業務にはほとんど携わりません。
だからこそ、「なぜ、日勤の人はあんなに遅くまで残って、何をしているんだろう?」
という素朴な疑問を抱いていました。
もしかしたら、同じように感じている新人さんや、訪問看護に興味があるけれど
「実際どうなの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回は、そんな私の疑問をきっかけに、訪問看護師、特に日勤者がなぜこれほどまでに
多くの書類作成に追われるのか、その根拠と理由を調べてわかったことを、
皆さんにご紹介したいと思います。
「私たちが利用者さんと向き合う時間」と「日勤者が書類と向き合う時間」のギャップ
訪問看護師の仕事は、利用者さんのご自宅へ伺い、その方の生活に寄り添いながら
専門的なケアを提供すること。
これは夜勤の私も同じです。
体位交換、医療処置、バイタルサインの確認、そして何気ない会話の中での精神的なサポート…。
利用者さんの笑顔を見るたびに、「この仕事を選んでよかった」と心から思います。
しかし、日勤のスタッフさんを見ていると、どうにも「利用者さんと向き合う時間」と
「書類と向き合う時間」のバランスが、私が想像していたものと大きく違うように感じられました。
夜勤の私が入所さんのところに行って帰ってきても、日勤のデスクには明かりが灯り、
キーボードを叩く音が響いている…。
まるで、訪問看護師の仕事の半分は、デスクワークなんじゃないかとさえ思えるほどです。
この疑問の答えを探すうち、私は訪問看護の「見えない仕事」の奥深さと、
その重要性を知ることになりました。
なぜ、日勤者は「見えない仕事」に追われるのか?3つの大きな理由
夜勤の私が行う「記録」は、その日のケア内容を記載するものが主ですが、
日勤者が行う「書類作成」は、もっと広範で、多岐にわたるものでした。
その背景には、主に以下の3つの理由が深く関わっています。
サービスの「透明性」と「信頼性」を担保するため:税金と保険料で支えられる責任
私たち訪問看護サービスは、医療保険や介護保険といった公的な制度によって成り立っています。
つまり、皆さんの税金や保険料が投入されているサービスなのです。
だからこそ、「どんなサービスが、いつ、誰に、どれくらいの時間提供されたのか」を明確にし、
その情報をオープンにすることは、利用者さんや社会に対する私たちの責任です。
- 根拠となる資料:
- 厚生労働省令「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」第28条(記録の整備): この省令では、訪問看護事業所が作成・保存すべき記録について細かく定められています。例えば、「提供した指定訪問看護に関する諸記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない」と明記されており、サービスの計画から実施、評価まですべてを記録として残すことが義務付けられています。
- 介護保険法第23条(報告等): 介護保険法においても、保険給付の適正な実施のため、サービス提供事業者に対して記録の作成や提出が義務付けられています。
これらの法律や省令によって、私たちはサービスの適正性を証明し、不正を防ぐための「証拠」として、詳細な書類を作成することが求められているのです。
日勤者は、これらの要件を満たすための、いわゆる「公的な書類」の作成を担う核となる存在だと言えるでしょう。
「チーム医療」の要:多職種連携を円滑にする情報共有
訪問看護は、私たち看護師だけで完結するものではありません。
主治医、ケアマネジャー、薬剤師、リハビリテーション専門職…利用者さんを支える
「チーム」の一員として、私たちは日々、多職種と連携を取りながらケアを進めています。
この連携を円滑に進める上で、「正確かつ分かりやすい情報共有」は欠かせません。
例えば、
- 訪問看護計画書・報告書: 利用者さんの状態や目標、提供したケアの内容を定期的に主治医やケアマネジャーに報告することで、他の専門職も利用者さんの全体像を把握し、各自の専門性に基づいて適切な判断を下すことができます。
- アセスメントシート: 利用者さんの身体状況、精神状況、社会的な背景などを多角的に評価した内容は、ケアプランの策定や見直しに不可欠な情報です。
これらの書類は、まさに多職種間の「共通言語」のような役割を果たしています。
日勤の看護師は、これらの情報を集約し、整理し、必要に応じてそれぞれの専門職へと
橋渡しをする役割を担っています。
- 根拠となる資料:
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」の推進: 高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される体制が推進されています。このシステムにおいて、各専門職が情報を共有し、連携を強化することは極めて重要であり、その基盤となるのが正確な記録です。
- 「多職種連携を推進するための手引き」(例:各地の医療・介護連携に関する協議会資料): 多くの地域で、多職種連携を円滑にするためのガイドラインや手引きが作成されており、情報共有の重要性や具体的な方法が示されています。
利用者さん中心の質の高いケアを提供するためには、日勤者が作成するこれらの情報共有のための書類が、極めて重要な意味を持っているのです。
利用者さんの「安全」と「質の高いケア」を守るためのエビデンス
日々の詳細な記録は、利用者さんの命と健康を守り、より質の高いケアを提供するための
「羅針盤」のようなものです。
- 病状の変化の早期発見: バイタルサインの変動や全身状態の観察記録は、病状の悪化を早期に察知し、適切な対応をとるための重要な情報となります。
- ケアの継続性: 過去の記録を参照することで、次に訪問する看護師がスムーズにケアを引き継ぎ、一貫性のある質の高いケアを提供できます。
- 医療安全の確保: 何か問題が発生した際にも、詳細な記録があれば、原因究明や再発防止策の検討に役立ちます。
これらの記録は、日勤者が日々の訪問の中で得た情報と、それに基づいて行った判断
・ケアを詳細に記述することで成り立っています。
- 根拠となる資料:
- 日本看護協会「看護記録に関する指針」: 看護記録は、看護の質の向上、患者の安全確保、法的責任の明確化などを目的として作成されるべきだと提言しており、記録の重要性を強調しています。
- 医療安全に関する報告書(例:公益財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業報告): 医療事故の分析報告では、記録の不備や情報共有の不足が事故原因の一つとなるケースが指摘されており、正確な記録の重要性が浮き彫りになっています。
利用者さんの「もしも」に備え、そして日々のケアの質を向上させるために、
日勤者が地道に作成するこれらの記録は、まさに「見えない命綱」としての役割を担っている
と言えるでしょう。
私が抱いた疑問の先にあったもの
夜勤専従の私が抱いた「なぜ日勤者はあんなに遅くまで書類と向き合っているんだろう?」
という素朴な疑問は、訪問看護という仕事の奥深さ、そしてその背景にある重い責任と、
多岐にわたる役割を知るきっかけとなりました。
日勤者がパソコンとにらめっこしている時間は、決して無駄な時間ではありませんでした。
それは、利用者さんの安全を守り、質の高いケアを保証し、そして公的なサービスとしての
透明性を確保するための、言わば「見えない看護」の時間だったのです。
もちろん、この膨大な書類作成の負担をいかに軽減していくかは、業界全体の大きな課題です。
ICT化の推進や業務フローの見直しなど、改善の余地はまだまだあるでしょう。
しかし、私がこの疑問を抱き、その答えを探したことで、日勤のスタッフさんへの尊敬の念が
より一層深まりました。
そして、私たち訪問看護師が、利用者さんの生活だけでなく、その裏側にある
「見えない仕事」によっても支えられていることを改めて実感しました。
夜勤の私も、日勤の皆さんの努力に感謝し、自分の役割の中で最高のケアを提供できるよう、
日々精進していきたいと思います。
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